彼は思っていた通りの、いや、それ以上の青年であった。洋平くんは、まさに紳士だった。私のミスをさらりとフォローして、そうして何事もなかったかのように涼しい顔をする。 綺麗な顔立ちに、はっきりと言うのに物腰柔らかな口調。けれどもところどころ混じる無骨さが男らしく、そうして色っぽい。目を細めて見るしぐさも、困ったように寄せる眉も、 どれもこれもが魅力的だった。


 最近取り付けた大仕事をこなしながら、私はずっと彼のことを考えていた。最近は、あの喫茶店でお昼に顔を合わせては世間話に花を咲かせていた。けれどそれもこの仕事が入るまでの話だ。 思っていたよりもずっと大きな仕事を任されることになって、私は俄然やる気が出ていたけれど、彼と会えないのは少しばかり寂しかった。そうして今もまた、彼のことを考えてしまうのである。 今までに、ここまで興味を持った人間はいただろうか。あまり深く人と混じり合わずに生きてきた私にとって、それはとても新鮮な感覚だった。彼氏がいなかったわけではない。 けれどそれはどれも受身な関係であった。結局は、私は彼氏に興味が持てずに別れてきたのだ。だからこそ、こんなにも自らが興味を持つ、あるいは拍動さえも左右される存在は脅威だった。 「ちゃんこん詰めてるなー、ムリせんといてな、倒れたりしたらボク心配やねん」突如私の思考に割って入ったのは土屋さんの気の抜けた声だった。そんなにも辛そうな顔をしていたのだろうか。 大丈夫です、と返して顔を上げると、土屋さんは心配そうに眉を寄せた。それは、けれども私の胸に届くことはなかった。ただ、ああ、やっぱり洋平くんとは違うなあ、と考えて、漠然と時計に目をやった。 時刻はもうすぐ十一時を回ろうとしていた。窓の外は気づけば星空となっていた。街灯がぼうっとした明りで寂しげな街を照らすのみである。土屋さんは念を押すように体調だけはきいつけや、 と言うと、ほなお先に、と続けて帰って行った。一人きりになったオフィスで、ああ、この感覚は久しぶりだとふと思った。ちょっと前まではこの感じが一番落ち着いたのに、今はちょっとだけ、 寂しいと思ってしまう。今日はこれが終わったら帰ろう。パソコンの画面に映し出されたもう少しでひと段落つく資料に目を移して、は考えを振り払うように没頭した。









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