――今日明日とクリスマス寒波の影響で、一部地域では雪がちらつくでしょう。それでは今日から一週間のお天気です―― お天気おねえさんのにこやかな笑顔は佐助がチャンネルを切り替えるとともに姿を消した。毎年恒例のクリスマスは、毎年のようにやってくるクリスマス寒波で今年も 極寒のようだ。トーストをかじりながら、去年は何してたっけかと考えて、そうだ、ネズミ―ランドで震えてたんだったと思い出した。その時一緒にいた女の子の名前は 覚えていない。早朝から出かけて行った旦那は、今頃はなとネズミ―ランドである。寒くなると言ったのに、パーカー1枚で出かけて行ったが大丈夫だろうか。旦那のこ とだから、暑いとか言ってそれすら脱いでいそうだ。最後の一口を食べ終えて、佐助はコーヒーカップに口づけた。ぬるくなったコーヒーはあまりおいしくない。一気に 飲み干すと、わざとらしくさてと、と声を上げて佐助は立ち上がった。珍しくなんの用事もない休日がクリスマスと言うのも虚しいが、それでもせっかくの休みだから、 カップルを冷やかしがてら買い物にでも行こう。流しに溜まった食器を片づけながら、芸能人の熱愛報道で騒がしいワイドショーを聞き流していた。 ちょっと遠出しようと都会まで来てみれば、キラキラと輝くイルミネーションに賑わいは最骨頂であった。至る所にカップルがいて、独り身の自分はここにいてはいけない ような衝動にすら駆られるほどだ。鐘の音が鳴る仕組みが付いた三角錐の塔の前には長蛇の列ができていて、まるで寒さなど微塵も感じていないようである。寒さに身震い しながら、佐助は茫然と列を眺めた。(買い物も終えたし、そろそろ帰ろうかな)吐き出した息は白い。道沿いに彩られたイルミネーションを辿るように、駅までの道を歩 む。どこを向いてもカップルばかりの空間は、なんだか少しむず痒かった。手を繋いで、笑い合って、輝いている。サラリーマンのほかに独り身の人などどこにもいない。思 わず同類を探してちらちらと辺りに目配せしてしまう。(俺様寂しい人みたい。何やってんの)自分の行動に苦笑しながらもちらりと目を向けた先には、同じく独り身の女の 子がいる。(お、仲間)少し気まずいのか足早に向かって来る姿をついつい目で追った。(あれ、どっかで見たことあるような)ファーの付いたミリタリーコートに、ジーパ ン。コートのポケットに両手を突っ込んで、白いマフラーに顔を半分うずめているけれど、あれは間違いなくちゃんである。 「ちゃん」 小走りに駆けよって声を掛けた。びくりと肩を上げたちゃんは、あ、と声を漏らしてから、猿飛じゃん!と驚いたような声を出す。ポケットから出てきたかじかんだ手で、 少しだけ下げられたマフラーから、にこやかな口元が顔を出した。やっぱり、鼻は赤い。そうして、頬も赤い。 「どうしたの?こんなとこで」 「ん、センター前特別講習の帰り」 「熱心だねー」 猿飛と違って余裕ないからね。ずず、と鼻を鳴らして口を尖らせたちゃんは悪戯っぽく笑った。そうしてまたポケットに手を突っ込む。 「猿飛は?」 「俺様買い物帰り」 「一人で?寂しいなあ」 俺様モテないからさ。嘘つけ。一通りの掛け合いに興じて、顔を見合わせて笑った。ちゃんは寒い寒いと肩を震わせる。そうしてゆっくりと元来た道を戻り始めた。 駅に向かって佐助の横を歩き始める。 「あれ、ちゃんこっちでいいの?」 「いいの、別に大した用事じゃないから」 「ふーん」 話しながら歩くちゃんの歩幅は狭かった。そうしてゆっくりで、イルミネーションを楽しむにもちょうどいい早さだった。ポケットに突っ込まれた手は未だ姿を見せない。 口元はまたマフラーの下に隠れてしまっている。少しだけ残念な気持ちになって、けれども今年のクリスマスもぎりぎりセーフで一人ではなかったと思うことにして、笑った。 |