このどうしようもなく空気が読めない感じが好きだったのかと思うと、未だに信じられなくなることがあったけれど、けれども確かに好きであったことは間違いないのだと顔を見るたび に思う。そうしてその度に複雑な気持ちになる。もちろん現在進行形である。


「ねえ、佐助、さんと付き合ってるの?」


このどうしようもなく空気が読めない感じが以下略。きらきらと輝かんばかりの目を見て思わずため息が出た。ねえどうなの、と迫ってくるはなに、以下略を何度繰り返したかしれない 。とりあえず、以下略。以下略以下略。もう一度盛大に溜息を吐いた。何度否定すれば気が済むのだ。


「だからー、たまたまバイト帰りにあっただけだってば!」


はなしつこいよ、と言ってやれば、ようやっと諦めたらしい。なんだー、とつまらなそうに唇を尖らせて旦那のところへ帰って行く。その背を送りながら、またしても溜息を吐いた。 あの子あんなに面倒くさかったっけ?



どうってことはない。本当にあの後一緒に帰っただけだった。予備校の話をして、バイトの話をして、それから旦那の話をした。噂しか知らないけどと俺様の話を聞きながら笑う彼女は 、何も考えていないようだったけど、なんとなく、ちゃんは優しいんだな、と思った。単純じゃないこの優しさは、労いの言葉を口にするばかりで優しさと勘違いしている他の誰よ りも、よっぽど優しい。けれどもきっと人には伝わらない優しさなのだ。佐助は帰り道道ずっと考えていた。こんな気を使える子がいたんだと、ただ感心せずにはいられない。ある意味 個性の立たない子であるけれど、それは逆に言えば空気を読むのに長けているということだ。佐助にとって、地味とは少し違った意味で、彼女は酷く目立たなかったが、見る目が変わっ た気がする。いや、きっともう少し前から、見る目はかわっていたのだ。

ちゃんは机に突っ伏して惰眠を貪っていた。寝返りを打って、後頭部が覗く。黒髪が流れて、艶めいている。クラスメイトは思い思いに動き回って、自習時間を謳歌している。にぎ やかな声が響く。特別なことはない。よくある教室のワンシーンだ。その中で、彼女はきっと主役ではない。そうして俺様も、主役にはなれなかった。旦那とはなが楽しげに談笑するの が聞こえる。陽光が注いで、彼女たちは輝いている。まるでスポットライトのように照らされた彼女たちは、きっと、少し陰った俺様たちの気持ちは、欠片も知ることはないのだろうと 、少し笑った。








生かさない愛とずっと



120205