もしもはなの隣にいるのが俺様だったら、もしももっと早くはなに思いの丈をぶつけていたら、もしも旦那より先にはなと出会っていたら、それでもきっと、 この運命は変わらなかっただろう。わかっていても考えてしまうのは、やっぱり失恋したってことだろう。談笑の響く教室で、俺はただただはなと旦那を視界 に映して、それでいて彼らには目もくれず、呆然と肘をついて眺めた。階段の踊り場で、はなは結局俺様の言葉に何も返さなかった。けれどあの沈黙は、どん な言葉よりもはっきりと俺に答えを伝えた。最後のありがとうは、一体何に対してだろうか。背中を押したことに対してだろうか。それとも、気持ちを伝えた ことに対してだろうか。願いとしては、好きであったことに対してであって欲しいと思う。でもきっと、はなはそんな深く考えていないだろう。純粋に、背中を 押したことに対して、ありがとうと思っているに違いない。ああ、鬼の旦那のこと笑えなくなっちゃったな。情けない。ぼやけた視界で捉えたはなは、心底嬉しそ うに旦那と話ている。そうしてその後ろでは、あからさまににやにやした竜の旦那がちゃんに話しかけていた。いや、絡んでいる、の方が正しいかもしれな い。ちゃんは相当ウザったそうな顔をしている。最近、竜の旦那とちゃんが絡んでいるのをよく見る。あの2人仲良かったっけ?俺様聞いたことないな 、ふと思って目で追った。それに気づいたのか、ちゃんが俺様に視線でヘルプを呼んでいる。というか、こいつどうにかしろ、と顔に書いてある。女の子に 頼まれちゃ、断れないでしょ、ねえ。仕方なしに立ち上がった俺様に、ちゃんは待ってましたとばかりに話しかけてきた。 「ちょっとあいつどうにかして、あいつなんなのしつこい!」 「ha! あいつ呼ばわりはねえんじゃねえのか、なあ、」 「ちょっ、名前で呼ぶな!」 まるで漫才のような掛け合いをしながらやってきたちゃんと竜の旦那に、はいはい、そこまでにしてあげて、と宥めすかすと、竜の旦那は俺様に一睨みを くれてから、にやりと厭味ったらしく笑って去って行った。一体なんだったのと呟くちゃんに、まったくだ、と返せば、思わず顔を見合わせて笑みが漏れる。 「ありがとう」 笑いながらそう言ったちゃんに、お互い様、と返したとき、俺の思考は惨めなもしもの包囲から脱していた。 |