学祭を青春イベントだと決めつけたのはどこの誰だったか、私は知らない。少なくともこのイベントは彼らにとって恋愛の一大イベントで、私にとってはただの慌ただしい日常だった。しかしながら、 月曜日の振り替え休日はありがたい。休日に比べて人の少ない町並みは、ウィンドウショッピングには好都合だった。見上げた空は綺麗な秋晴れで、少し肌寒い。今日だけは受験勉強はお休み! と自分に言い訳をして、ぶらぶらと道をゆく。街路樹は黄色や赤に色を変え、道行く人は上着を羽織りだした。もうすぐ冬が来る、そうして私の高校生活も終わりに近づいてゆく。振り返ることもないほどに、 平凡で楽しい高校生活だった。少し感慨に浸りながら頭に過るのは、あの、少女漫画たちだった。(学祭はやばかったなあ)何度か目撃した少女漫画のワンシーンの中でも、あれは強烈だった。 まるで台詞を吐くように、真田は山村さんに囁き、山村さんはそれに答える。そうしてそれを遠巻きに猿飛が見ている。「内緒で抜け出すか、」「でも、」「某が一緒だ、大丈夫」走り出した真田と、 引っ張られていく山村さんは、絵になっていた。けれど一番光っていたのは、残された猿飛だろうか。私は何も見ないふりをして、焼きそばを売っていた。端役Cとしての、精いっぱいの名演技だった。 誰もが目を奪われるような真田と山村さんの動きに、唯一私だけが乗り遅れてしまったから、もうそうする役どころしか残っていなかっただけなのだけど。あの時の猿飛を見ていた人がいるとなると、 少女漫画的にはよくない気がしたのだ。何故私はこんなにもポジションを気にしているのだろうかと、時々思うことがある。けれどどうしても、彼らの小劇場に足を踏み入れてはいけないような気がするのだ。 私はあくまで端役でなければ。ふと、考え込んでいた頭を現実に引き戻した。気づけば繁華街を通り抜け、駅前まで来てしまっていた。来た道を戻ろうか、思案して、駅前の個人経営の喫茶店を思い出す。 (そうだ、あそこ行ってみよう)来た道を少しだけ戻りながら喫茶店の看板を探した。すぐに視界に入ってきた、可愛らしい手書きの看板を覗き込んで、大きく取られた窓を覗き込む、そうして、 意外な人物を見つけた。(あ、伊達だ)何故こんなところにいるのだろう、という疑問と、居るとわかっていて入るのか、という思いが混ざり合って、手を掛けた扉を押し込むのを躊躇する。 息を潜めるように覗き込んだ喫茶店の中で、伊達が嬉しそうに笑っているのが見えた。それは決して学校で見ることはない、いや、きっとここでしか見ることはできないものだろう。彼の目は間違いなく 店員の女性を愛おしげに写していた。その伊達に合わせて私も店員に目を向ける。なるほど、綺麗な人だ。そうして彼女も大層楽しそうに見えた。この空気を壊すのは、あまりに惜しい。私は見なかったふり をして、扉からそっと手を引いた。今日は天気がいい。もう少し、外を散歩しようか。 |