放課後の教室には大勢の人間が溢れていた。思い思いの動きをとる彼らは、けれど目的は一緒だった。騒がしく声を上げ楽しげに笑う。真剣な眼差し、 響くシャッター音。最後の学祭は、思った以上に気合が入っていた。学祭が終わればすぐに始まる体育祭も、きっとこんな感じになるに違いない。 そう予感させるほど熱気の籠った教室は、とても秋口に差し掛かる季節とは思えないほど暑かった。 「いるか?」 自分に振り分けられた仕事が一通り片付いた時だった。まるで頃合を見計らっていたかのように、でっかい図体が教室の扉から大声を出した。 いるか、なんて聞いているのに、その鋭い隻眼は間違いなく私に向いている。聞かなくても見えてるじゃん、なんて文句を垂れてやると、 嬉しそうにそーかそーかと笑った白髪に近寄って、今度はこちらから尋ねた。 「何?どーしたの?」 近づきつつお見舞いした私の渾身のパンチを軽くあしらいながら、ちかちゃんはやっぱり楽しそうに笑って今日は10日だと自慢げに言った。 10日になんかあったっけ?とありったけの疑いの目で睨みつけると、バカヤロー!とでかい声でのたまった後、耳元で小声で囁いた。 「駅前のケーキ屋が全品250円の日だろうがよ」 ちょっと照れて赤くなった頬とか、わざとらしく逸らした目とか、こんな図体して甘いものに目がないところとか、 総合してやっぱりこいつ少女漫画のキャラだと思いつつも、しょうがないなーと不貞腐れたふりをしながら、今日はちかちゃんと帰ると 笑顔でえっちゃんに報告する私は、やっぱりこいつに甘いと思った。 |