「どうだろうな、俺は聞いたことねえからよ」 電話越しに聞こえたチカちゃんの声は、全く持って興味がないと言わんばかりのダルそうな声だった。だらだらと続いた電話はもうすぐ2時間が経とうとしている。そんなこと言わないでよー、 とぼやく私に、彼はだってよ、と続けた。 「猿飛から聞いたわけでもねえんだろ?だったらほっとけよ」 チカちゃんの言うことは尤もだった。猿飛から聞いたわけでもなく、ましてや仲がいいわけでもない。こんなの、ほっとくのが道理だ。けれども誰かに言わずにはおれなかったから、 猿飛とも仲が良くて、信頼がおけるチカちゃんに話したのだ。暇つぶしも兼ねて。私だって対して興味があるわけではない。ただ、噂話のタネにするには、上々な話だった。誰かの恋バナなど、 この程度のものだろう。それでもチカちゃんにしか言わなかったのは、猿飛へのせめてもの配慮だ。全く関係のない人間が知った彼の気持ちは、決して弄んでいいような軽いものではないような気がしたのだ。 「ああー、私も恋したいなー」 別段そんなことは思っていなかったが、電話越しの無言にとりあえず呟いた。お風呂上がりの火照った体をベッドに横たえて、足元に固まった毛布を手繰り寄せた。ああ、明日は数学のテストだ。 「すりゃあいいだろ。まあ、相手にできるのは俺くらいのもんだろうけどな」 自信満々の彼の言葉に、きっと他意はないのだろう。兄貴分として、言っただけに違いない。けれど思いがけないチカちゃんからの返答に、何、こいつやっぱり少女漫画のキャラなの?なんてときめいてしまった。 足でもじもじと手繰り寄せていた毛布を胸元に抱きしめて、え?何それ、チカちゃん私のこと好きなの?、なんて呟いた照れ隠しの言葉は、電話の背後から聞こえた兄貴最高ー!の掛け声に掻き消されて姿を消した。 要は手下どもにかっこつけただけかこのバカは。年齢イコール恋人いない歴のやつにときめいた私がバカだったよ。一生野郎と騒いでろ、と逆ギレした私に、そんなんじゃモテねえぞ、 とのたまったチカちゃんに翌日とび蹴りを食らわせたのは言うまでもない。 |