しん、と静まり返った教室の空気は真剣そのものであった。夏に向けて着実に温度を増す外気も、気後れしたようにこの瞬間だけは冷たくさえ感じる。カーテンを揺らす風は優しいのに、 決してこの空間を和ますことはなかった。この独特な空気を、私はあまり好きではなかった。圧倒されそうなほど鋭利な空気の中、途中で切れた集中を取り戻すのは難しい。紙を擦る音に耳を傾けながら、 もう一度紙面に目を戻した。あとたった3問だ。なのに、解く気が起きない。飛行機の通り過ぎる轟々とした音が遠くで聞こえた。雲一つない空に飛行機雲が伸びている。それは白いカーテンと合わさって、 とても爽やかな情景であった。青い空、飛行機雲、学生のカッターシャツ。残り時間は、15分。もう諦めようか、どうせ成績にそこまで大きな問題はない。腕を枕に机に伏せった。生暖かい両腕に、 おでこがぶつかる。骨が軋むような痛みに逐一頭をずらしながら、徐々に感じ始めた暑さにじわりと汗がにじむのを感じた。


、消しゴム貸してくれねえか」


さあ、寝よう。目を閉じた時に聞こえたのは、誰かの呟く声だった。ちらりと顔を上げると、伊達がこちらを見ながら言っている。どうやら私に消しゴムを借りたいらしい。 伊達の目が若干早くしろと急かしているようだった。借りる立場なのに偉そうだ。こんなんでも顔がいいと許されるのか。若干の不公平さに眉を寄せながら、伊達に合わせて小声でいいよ、 と返した声とともに消しゴムを差し出した。


「Thanks」


えらくいい発音で伊達は言った。そうしてから少年のような笑みを浮かべた。それはあの偉そうな態度からは想像もつかないほど穏やかで、まるでこの教室のように爽やかだった。 端正な顔立ちと、鋭い目元。冷たそうな印象の強い伊達が、こんな顔で笑うのか。(うわ、こりゃ惚れるわ)すぐに視線を机上の紙に戻した伊達を呆然と眺めながら、 思いのほか早く動いている心臓に、感心せずにはいられなかった。






粉々に砕けてしまうくらいの



111126