、今日居残りなー」
そんなイベントいらない、と本気で突っ込みそうになった。



今日は朝からいい気分だったんだ。いつもより10分早く目が覚めて、電車に乗ったら席が空いてて、お弁当には大好きな玉子焼きが入ってた。 だから、すごく気分がよくて、今日はついてるとか思ってて、えっちゃんに気持ち悪がられるくらいにこにこしてたのに。


「何このイベント、え?イケメンとお近づきにでもなれんの?」


誰もいない教室で1人で大量のプリントと格闘しながら、勢い余って突っ込みをかましてしまった。ああ、虚しい。教室の電気が意味をなさないほど、 窓からは夕日が映りこんでいた。教室中が橙に染まる。開けっ放しの窓からは、運動部の掛け声が聞こえてくる。こんな青春っぽい教室も私1人だとただ 寂しいだけだ。(くそっ森先生もせめて山村さんか真田辺りにやらせれば、青春イベントの発生キャラになれたのに)(私にやらせても何もおいしくない) プリントはやっと半分が閉じられたくらいだった。パチン、パチン、パチン。(せめてもう1人誰か手伝い見つけろよ)パチン、パチン、パチン。 (というかえっちゃん薄情だ)バイトだと消えた友人を恨めしく思いながら、勢いよくホチキスを押し込んだ。最後の束は、パサリと音をたてて机に落ちる。 (やっと終わった!)思わずため息をついた。机に放り投げたホチキスが、紙束の上に着地して、鈍い音をたてる。目を瞑って、ぐっと伸びをした。 いろんな悪いものがすべて出きった気がした。紙束は教卓に置いておけばいいか。とりあえず、早く帰ろう。お腹も空いた。開けっ放しの窓からは、 生温くなった風が流れ込んできている。(もう初夏、)夕日は落ち切る寸前だった。(閉めよ、)橙を反射するアルミフレームの窓に手をかけた。 グラウンドでは、ジャージ姿の運動部員が片づけのために走り回っている。そんな中、見知った男が1人。えらく目立っていた。(あ、猿飛) それは唯一制服姿であるからか、それとも夕日のようなふざけた髪色のせいか。校門に向かってグラウンドを突き抜ける背中は、何を思っているのだろうか。 ただ茫然と見やってしまった背中は、遠い。(そだ、早く帰ろ)手に力を込める。でも、目は離れなかった。不意に、猿飛がこっちを向いたからだった。 (今、目合った?)少しばかりの緊張感。けれど、猿飛は何事もなかったかのように背を向けた。そうして校門を抜けていく。(ま、そりゃそうだ) (私だってそうする)大声出してまで挨拶するほどの仲じゃない。その姿に、なんとなく安心した。





安堵しながら動揺する



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