あれから1週間は真田と山村さんの話で持ちきりだったけれど、それもきっかり1週間で姿を消した。少女漫画のその後なんてこんなもんか、と思うほどあっ さりとした幕引きだった。3年の頭から、いや、下手をしたら1年の時からあんなに目立っていた彼らは、今はその半分も目立ってはいない。しかも残りの輝 きも、その大半が伊達によるものだった。たしかに、皆それどころではないのかもしれない。11月に入って、空気は急に受験モードになっていた。推薦組が ぽつぽつと決まりだし、一般組はぴりぴりしている。けれどそれも端役たちの間の話で、主役たちにはあまり関係がなさそうだった。伊達と猿飛は推薦を受ける 気はなさそうだったが、もともと成績優秀で、大半の大学はA判定をもらっているらしいし、生徒会役員だった山村さんは、いの一番に推薦を決めた。どこの大学 かは知らないけれど、そんな話を生徒会長の毛利がしているのを小耳に挟んだ。彼女は明るくて、勉強もできて、まさに少女漫画のヒロインのような女の子なの だ。世の中不公平にできているものだと、常々思う。そんな恋人を持つ真田は、スポーツ推薦をもらっていたようだが、それを蹴って彼女と同じ大学に行くと教 室中に響く声で叫んでいた。けれどもそれは難航しているらしい。C判定をもらったと項垂れながら猿飛に話しているのを聞いた。それでも、恋人がつきっきり で勉強を教えてくれるのだから羨ましい限りだ。


と、他人の話ばかりしてしまったが、斯く言う私も一般組で、しかもB判定と言う中途半端な状態である。真田のように連日徹夜をするほどではなくとも、 伊達ほど余裕をぶちかますことはできない。毎度授業時間と睡眠時間を勘違いしている前の席の伊達を睨みつけながら、溜息を吐いた。ああ、早く受験終わ らないかな。自習時間でも黙々と勉強するクラスメイトの真面目さに一種の眩暈のようなものを感じる。今日はこの後予備校だ。今の時間は休憩にしてし まおう。ふとそんなことが頭を過った時、突然伊達が私の名を呼んだ。そうして呆然と驚く私を尻目に、偉そうに腕を組みながら問うた。


「あんたは気づいてたんだろ?」


私はただただ、目を見開いて頭に浮かぶ大量の疑問符をどう対処すべきか考えていた。伊達は、何に対して気づいていたなどと言っているのだろうか。 私の顔に疑問符でも張り付いていたのだろう。伊達は流暢な発音でslow on the uptake!と呟くと猿飛だ、猿飛。と今度は小声で言った。


「ああ、て、え?」


だから?と思いっきり聞き返してしまった。彼はきっと猿飛が山村さんのことを好きだったということを言いたいのだろう。けれどそれを私に聞いてどうしよ うというのだろうか。伊達は、やっぱりも知ってたんだな、と一人納得したように呟いている。そうしてまた私に向き直った。


「猿飛もも、うちはバカばっかだ」


そう言った伊達はいっそ清々しいほどにやついていた。なぜこいつにバカ呼ばわりされなきゃいけないのかはわからなかったけれど、それでもなぜか納得して しまった私は、やっぱりバカなのかもしれない。ふと猿飛と山村さんのワンシーンを思い出した。あれを見ちゃったら、もう何も言えない、と思う。けれどそ れを伊達に言うのもバカらしくて、とりあえずこの時間は寝ることにした。








望んでいたのはそれだった



111219