彼が意外にも一途であると感じたのは、誰がどう見ても真田と両想いの山村さんを未だに諦めていないということに気が付いたからだ。大体、 山村さんの傍には猿飛がいる。真田ではなくて、猿飛がいる。そうして真田が来ると、猿飛は一歩離れる。それが顕著なのだ。毎日なのだ。けれど真田も、 ましてや山村さんも気づいていない。それほど自然に、彼は山村さんの傍にいる。一度だけ、そんな風にして山村さんを見つめる猿飛を、伊達が睨んでい たことがあった。伊達が二言三言猿飛に声をかけた後、なんだか自嘲気味に笑っていたのを見たことがあるから、きっと伊達もうっすら気づいているに違 いない。しかしきっと、猿飛が報われることはないだろうと思う。残念だが、この少女漫画の終わりは見えていた。両想いの二人に残されたのは、告白と 言う通過儀礼だけだった。そうして間違いなく、猿飛はそのために必要な“彼女の背中を押す”という役を買って出るだろう。その為に、猿飛は山村さん の一番近くで作り笑いをしているようにしか見えなかった。ああ、なんて哀れなやつだろう。けれどその役は、この少女漫画でもっとも重要な役に違いない。 猿飛は今日も山村さんの一番近くで、誰よりも山村さんをその目に映しながら、山村さんの目に映ることなく、もっとも遠い場所にいる。彼のへらへらとし た独特の笑い方も、彼女の前ではほんの少しだけ優しくなるということに、山村さんが気づくことはないのだろう。山村さんと親しくなってから、ころころ と変わっていた恋人がいなくなったということも、彼女は知らないに違いない。猿飛の努力はどこまで行っても無駄なのだ。意味をなさない。山村さんに気 付かれすらしない。少女漫画の二番手には必要な、最高のキャラクターだけど、これではあんまりではないだろうか。ドッヂボールで見せた顔も、補講の時 の顔も、秋の掃除週刊の時の顔ですら、なんとも不器用な笑顔だった。あんなにも器用に生きてきた猿飛を、ここまで不器用にさせたのは間違いなく山村さ んなのに、なぜ一度とて彼女の目に猿飛が映ることはないのだろう。目の前の猿飛が、また、山村さんに笑いかけた。その顔は諦めと、恋しさと、ほんの少 しの希望の混ざり合った、なんとも切ない笑顔だった。 |