見渡す限り白である。どこをどう見ても、てんで色がない。その上、部屋には生 活感すらなかった。随分と大きなソファがぽつねんとあるだけで、他にはなにも ないのだ。正面の窓から絶えまなく日が注いでいる。カーテンの裾が弄ばれて、 ひらりと宙を舞う。何かに促されるように、一歩、部屋へと足を踏み入れた。真 っ黒な革靴がカツリと音をたてる。それは白い部屋をゆるりと通り抜けて、半開 きの窓から虚ろな世界に飲み込まれて消えた。


呆然と部屋を照らす世界には、不気味なほどに音がなかった。握り締めたカーテ ンが醜く歪んで、灰色の影を落とす。規則正しい息づかいだけが、緩やかに、優 しく、白い棺桶に生を見い出した。背後のソファが微かに音をたてる。鼻孔をく すぐる甘い香りが脳天を貫いてくらくらする。「」「なあに」笑い混じりに ゆるゆると交わされた言葉はそれきりだった。ソファに寝転がってくつくつと笑 うは、妙に色気がある。  くらり、くらり、  薄紅色の唇は吸い込まれ そうなほど魅惑的だ。  ぞくり、ぞくり、  身体の奥に熱を感じた。ぐつぐ つと煮えたぎるような熱気が脳髄に絡みつく。そうして俺の思考をやんわりと停 止した。甘い。ただ只管に甘い何かが支配する。


噛みついて、貪るようなキスをした。吐きそうなほど甘い香りが、身体中に巡る 音がする。握り締めた手首は折れそうなほど細く、脆い。真っ白なワンピース から覗く真っ白な鎖骨はひたすらに甘く官能的に微笑んでいる。「佐助」「なに 」白い壁は俺を排除しようと高圧的に俺を睨んでいる。橙色の髪を掻き揚げた俺 の手はこんなにも震えている。「なんでもないの」の幽かに上下する胸元は こんなにも儚い。「ただ、」細い指が俺の頬を這う。そうして髪を掬った。また 、甘い香りが鼻を刺す。俺の中の何かが切れる音がする。の吐息が首筋を擽る。





会いたかっただけよ







むせかえるほど白い部屋の中で、俺とだけが不釣り合いなほど鮮やかだった。










君の香りは酷く俺を疼かせる

081126