たとえば、君が時たま見せる笑顔は花のように愛らしいと言えば、君は鷹のよう に鋭いまなこを大きく見開いて、音もなく笑うのだろう。そうしてから、僕らし くないとでも呟いて、姿を消すかもしれない。 たとえば、僕が小さい咳をひとつすれば、君は枯れ葉の如く優雅に、ひらりと僕 の元へと舞い降りて、そっと背に触れるのだろう。そうしてから、鈴のように麗 しい声で僕の名を呼ぶかもしれない。 たとえばの話をするのは、僕はあまり好きではないんだ。特に、可能性が零だと 分かっていることに対して、たとえばの話をすることほど無意味なことはないか らね。だから、君は、凄いよ。僕にたとえばの話をさせるんだから。僕は柔軟な 考え方が出来る割りに頑固でね。自分でも自覚はしているんだが、これがなかな か治せない。…まあ、その話は後で良い。兎に角、君はそんな僕に話させている んだから、光栄に思って良い。 たとえば、僕が君の氷のように冷えた手を優しく握れば、君は太陽のように暖か い手で握り返してくれるのだろう。そうしてから、空いた左手で僕の頬を拭うか もしれない。 たとえば、君の宝石のように輝く涙を僕が拭えば、君は恥ずかしがって頬を桃に 染めるのだろう。そうしてから、ふいと横を向いてしまうかもしれない。 たとえばの話は、そろそろ止めにしなければならないらしい。僕もそれを感じて いるし、何より君が一番感じているだろう。僕の背後から部下の声が聞こえるよ うに、君の背後からも誰とはつかない声が聞こえているのが、僕にもわかる。 だから、これで最期のたとえばの話にしよう。僕はきっとこれから、誰ともたと えばと口上し、語り合うことはしないだろう。 たとえば、横たわる君の名を呼んで、君を愛していると囁けば、君は私もですと 掠れた声で、事も無げに言うのだろう。それから、ただの眠りに就くように、幽 かに微笑んで目を瞑るかもしれない。 ねえ、、 |
愛しているよ |