彼女は実に美しい女性だった。嫋やかで、淑やかで、淫ら。漣のように優しく、浮雲のように自由に、猫のような軽やかさを持った彼女は、 そうしていて総てを包み込むような強かさを併せ持っていた。彼女の名は、 という。俺は という海に溺れていた。しかしそれは何ものより心地よく、まるで揺りかごのような穏やかさだった。このまま一つになってしまいたいと、 呼吸を忘れて想い続けるほどであった。 はいつも何も言わなかった。けれど俺の総てを受け入れてくれていた。優しく微笑んで、俺の心のしがらみを洗い流した。いてくれるだけでよかった。 そうしてそっと俺は を抱きしめて、それだけで何よりも満足だった。時たま、 は何かを言いたげな顔をする時がある。そんな時大抵彼女は愛を囁いた。佐助、佐助、大好きよ、愛してる。それは俺を恍惚とした気持ちにする。 そうして俺は果てる。 はそれを受け止める。 の身体を丁寧に拭いながら俺もまた愛を囁く。愛してる。 。その時の は酷く静かで、まるで人形のようであった。陶器のように白い肌、硝子細工のような瞳、薄く開いた唇。そのすべてが愛おしくて愛おしくて愛おしくて 愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて、


だから、殺してしまいたいと思ったのだ。誰かのものになるくらいなら、俺に愛を囁いたその唇でほかの誰かに愛を紡ぐのなら、いっそ死んだ方がいい。それが、おまえがシアワセになる一番の方法なのだ。

彼女の細くて壊れそうな首筋に手を差し出したとき、彼女はただただ俺だけを見ていた。そうしてその唇から小さく息を漏らした。 はそれから、いつでも微笑んでいる。そうして泣いている。薄く開いた唇は誰の名前も呼ばない。ただただ俺を見つめ、愛を紡ぐのだ。





鳴かない猫



111017