「最期の祈りは?」 彼は倒れ伏す私に銃口を向けながら言った。死んだような目には私を映しながら 、しかし瞳には何も映してはいなかった。 「残念、神は信じていないの」 どくどくと溢れる体液は、いとも簡単に地を赤く染め上げた。私の意識はそのた びに朦朧とするばかりだ。彼の顔すらまともに見えない。 「奇遇だねぇ、俺様もだよ」 彼は笑ったようだった。飄々とした口調とともに、手を口元に当てたのが分かっ た。じゃあ、もういいね。彼は笑いを噛み殺すようにしてまた言った。のこ と、気に入ってたのに、残念だよ。決して残念そうには聞こえなかったが、そん なことどうだって良いように思えた。私の全てが終わるこの瞬間に、そんなこと を言われたって、それは無意味でしかないのだ。ねぇ、それは佐助が一番よく知 っているでしょう? 「それは本当に残念ね、佐助」 でも、私は光栄よ。愛した人に受け入れられて。私は笑った。声を出して笑った 。せめて最期くらい、この陰険で薄汚れた、自らを全うすることさえ許されない 人生を、笑ってやりたかったのだ。佐助はまた笑ったようだった。手を口元にあ てがって、そうして静かにトリガーを引いた。




滲む優しさ



090206