いつもなら私が気づいた頃には鳴り止んでいる目覚ましが、鳴り続けているのだけ れど、私は一体どうしたらよいのだろうか。随分と長いことこの目覚ましを一人 で止めていない私は、もうどうやったら止まるのかさえ、眠気眼では思い出せも しないのだ。鳴り続ける目覚ましを睨みつけた。一瞬だけ止まったような気がし たが、けれどそれは気のせいだった。貴方はいつもこの目覚ましを止めて、おは ようと私の頬にキスをしていた。そうして春の微風のような優しい手つきで私の 髪を撫でていた。カーテンを押しのけて差し込む朝日、輝く微笑み、柔らかな温 もり。それは酷く心地よく、決して終わることのない楽園の入り口のように清ら かだった。、貴方が私の名前を呼ぶ。二度目の目覚ましが鳴り響く。顎先ま で滑り落ちた右手をそのままに、貴方は私に深い口づけを落とた。優雅な左手は 目覚ましをそっと黙らせて、二人は美しく穢れなき朝の訪れを感じ、その目覚ま しと共に妖艶で肉感的な夜を終えるのだった。けれどしかし、今もまだこうして 鳴り響く目覚ましを私は持て余していた。堕落した夜を終え、しかし訪れる朝は 憂鬱でしかない。迎えなければならない朝に希望はないのだ。静寂に響く目覚ま しはこうも胸を締め付ける。冷たい指先がこうも切ない。そっと持ち上げた左手 を眺めて、この目覚ましと共に宗一郎の優雅な左手が静かに私に終止符を打つのを、 私は想い、待ち続けてしまうのだ。






そのうち鳴りやむものならば



090826