街灯の光は容易く私たちを照らす割に酷く素っ気なく、そうして曖昧だった。繋 がれた指先の影は細い。振り返った宗一郎は儚げで、私は無表情だった。今日は やけに風が強い。縦横無尽に行き交う電線がぐわんぐわんと大きく揺れている。 宗一郎は何も言わない。私は漠然と、宗一郎と出会った日のことを思い出してい た。あの日は小春日和だったような気がする。しかし、大雨だったような気もす る。昼間だったと思っていたけれど、あれは夜だったかとも思う。記憶はぼやけ て輪郭がなく、それでいてその事実だけは確かに存在していた。なんせ、あの日 の彼の表情だけは鮮明に思い出せるのだ。真っ白な顔に、諦めの滲む穏やかな笑 み、それから何も映し出さない眼。その表情は滑稽で、けれど恐ろしく魅力的だ った。、宗一郎は言った。確かあのときも、彼はこんな風に誰かの名前を口 にした気がする。私は何も言わなかった。宗一郎は一度視線を落としてから、真 っ直ぐに私を見つめた。別れよう。彼の声は思うよりずっと穏やかだった。そう して記憶の断片よりも、ずっと切なかった。彼の肩越しに見えた女は、昔の私に よく似ていた。




近未来の君と残像



090525