好きでもない男を一日中目で追う私は頗る愚かで惨めだけれど、それはもうどう でも良いことで、誰も(それは私自身すらも)興味を持たないことである。けれど 、そんな私を必死で追い続ける後ろの男の愚かさと惨めさときたら、何よりも興 味深いことだと思った。教室中の目は皆一様に彼を見続けている。その間も、彼 は一挙一動、私の動きに翻弄されて、端正な顔に深い皺を刻み込んでは溜め息を 吐く。その度に私は酷い優越感で一杯になる。くつくつと笑みが洩れて堪らなく なる。学校中の誰もが認めるその美しさは、今、他の誰でもなく私が支配してい るのだ。彼の隻眼はその悠然とした姿に似合わず、寥々とした色に染まってゆく 。考える度に、躯中が抑えきれない欲望に震え上がった。ああ、堪らない。どく どくと躯中が熱くなる。けれど脳髄の奥深くだけが妙に冷たい。零れそうになる 笑みをひたすらに喉の奥に留めた。ああ、政宗、政宗、

「政宗」

振り向いた先の政宗は、それはもうとろけてしまいそうなほど美しかった。幽か に寄せられた眉、ゆっくりと波を打つ喉仏、縋るような瞳。優しく、優しく、噛 みつくようにされたキスに私は二度と戻れない闇へとゆっくりとけれど確実に堕 ちてゆくのだ。




のめりこむつま先



090225